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2004年01月 アーカイブ

2004年01月15日

第9回

年末は結局31日まで仕事をして、夜友人宅で年を越した。
帰省した元日の顛末は、まゆりが他で触れているのでここでは触れない。
3日に帰京したが年末の幸運も尽きてしまって、
ぼくにとっては季節はずれのメニエルがでてしまって、
『失われたときを求めて』全巻読破の壮大な計画が果かなくも頓挫してしまった。
と言うのも昨年
『失われたときを求めて』の最終章『見出された時』が映画化されて、
ヴィデオで見て全巻通して読もうと思ったからだ。学生の時プルーストの講座は取ったのだが、
卒論でやらない限り全巻読んでる暇などなく、
レポートに内容の把握は必要なので、普通はあらすじ巻ですます。
そのあらすじ巻ですら普通の長編ぐらいの厚さはある。
そしてまじめな人が、プチット・マドレーヌの条りを原文にあたる。
ラブレーの『ガルガンチュア・パンタグリエル物語』のように文庫版が出ておらず、
学生が全巻揃えるには高価すぎる。
図書館と研究室にはあるのだけれど、院生と学部生とで使うので、
いつもどの巻かが貸し出し中なのだ。

『ガルガンチュア』と言えば学生だったとき、
前回お話した蓮見重彦学長がロビンソン・クルーソーのように
無人島に取り残されに行かなければいけないとして、
どれか1冊だけ本を持っていくことができるとしてどの本を選ぶかと問われたならば、
ラブレーの『ガルガンチュア・パンタグリエル物語』と言われていた――これは1冊ではない――
それでぼくらは、それぞれ選んだ本を挙げた。
ぼくは『ガリバー旅行記』と『ドンキホーテ』どちらかなぁと思いながら、
友人たちがマラルメの『イジチュール』
  埴谷雄高の『死霊』 フローベルの『マダム・ボヴァリー』『感情教育』と
誰もが、1度は3ページめぐらいで必ず断念する本を挙げていたが、『ガリバー旅行記』を選んだ。
『デカメロン』と答えた友人がいて、なかなかホルモン分泌過多の時代が偲ばれて懐かしい。
すでに当時の蓮見重彦先生と同年齢にぼくらも到達しているらしいが、
今問うたら皆はどう答えるだろうか。
『デカメロン』と答えた友人はどうせ退屈なのだからとソローの『森の生活』とでも、
いまだに斜に受け流すだろうか。
  『ガリバー旅行記』は今でも好きだ。
リリパットの章が有名すぎて、あるいは他の章の問題提起が現代にとっても深刻なのか、
子供たちの情操教育?上黙殺されているのが残念に思う。
ムーミンや宮崎駿の作品の底流にあるものの1つではあるんだけれどなぁ~。

『失われたときを求めて』が映画化されたのは、
ルキノ・ビスコンティ――いつかお話しなければならないと思っている
――が果たしえなかったものをヘルツフォークが『スワンの恋い』を撮り、
ラウル・ルイスの『失われたときを求めて』――
『マルコヴィッチの穴』のジョン・マルコヴィッチが出ていて、
この人は本当に意外な所にでてきてどんな役もある種の自然さをもってこなす。
またカトリーヌ・ドヌーブがオゼット役で出ている。
――の2本がある。映画は昨年50本ほど見た。すべてヴィデオ。


映画の話は次回以降に回すとして、読書である。
昨年読書後言及した本は27冊である。それにビジネス本が数冊。振り返ってみると不作だった。
と言うか、布団の中で横で寝ているゲクラン鼻を塞いだりして、楽をした。
読みかけの本がずいぶんと増えてしまった。


『ローマ人の物語XⅠ』 塩野七生
『神の代理人』に続いて読んだ。同書も11作目をむかえ、2世紀を残すのみとなった。
このあと軍人皇帝の時代と言われる時代が続き、
ディオクレチヌス、コンスタンチヌス、テシオドス帝と帝国の終末へ向かう。
ミトラ教とキリスト教の鬩ぎ合いや、ローマ人の宗教がキリスト教になっていく過程で
どのような物語が紡ぎ出されるのだろうか。
  初回から虜になっている人も多いと思う。
出版界でも近年にない売れ行きのようだ。
そのせいもあるのか最近は、
アマゾンの書評では始めに比べて少し批判的な論調も目にし始めたが、
一貫して人物的視点はカエサルへまた制度的視点は寡頭的システムへ収斂していく。
この寡頭的システムは前作ヴェネチァ共和国1500年の歴史を扱った
『海の都市の物語』の中心テーマでもあった。
ぼくはこの一貫した強い意志には文章家としての矜持を感じて敬意を払う。

小島祐二


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