第四夜

かに座 ― 夜空のパガニーニ

登場人物―カニ、ぼく、モーリス兄ちゃん


― ゲクラン!ゲ〜クラン!。とぼくを呼ぶ声かします。

― どこ、どこ、だあぁれ。ぼくは回りながらクリクリ振り返りました。

― ここ、ここ、ほら足が危ないじゃないか。

― ああ、カニさん。小さなカニさんが足の間で左右に行ったり来たりしてました。

― 呼んでた、のになかなか、と三角に動いて、気づかなかったな。と前に来て言いました。

― こんばんは、かにさん。もっとずっと大きいかと思った。ぼくは前足と首をずーっと前に伸ばしてカニさんをよーぅく見ました。

― ヘラクレスも小さくて、地面にへばりついてるから見えなかった。と言いおった。

― じゃなくってぼく、お空ばかり見てたから。きょかにせいって言うし。

― 大きくもなれるぞ。おまえのお父さんが ― ゲクランは怖がりですから・・・。って言うから。

― うぅ〜ん、でも小さい人とだったら走れるよ。はやいよ。モーリス兄ちゃんよりは遅いけど。モーリス兄ちゃんはまだよちよちの時、走り方を教えてくれたんだよ。

― やめた方がいい。勝負にならん。と、おめめを立てて、左右に振りながら言いました。

― どうして、どおしてしょうぶにならないの。

― わしは、横にしか走らん。おめめがまた横にピッピット動きます。

― じゃあ、ぼくが横を向いて走ればいいじゃない。足がいっぱいあるから早そうだね。とぼくは言いました。

― 横は見えん。目は前についとる。それに、これは全部手じぁ。

― そんなことより、足のつめを切ってやる。お父さんがなかなか切らせてくれない、と言っとったぞ。それにモーリスも最近なかなか練習せんと言っとたぞ。

 

― えェッと、ぼくたちのおめめは、前が良く見えるように真ん中によってるんだよ。でもよくこける。

カニさんは、― ほいっ!。っと言って、ぼくよりおおきくなると、両方のハサミをキョキンキョキンと鳴らしました。そして手にした楽器をキキキーと鳴らしました。

― ほら、うだうだ言うととらんではよう足を出さんかい、耳の裏のむだ毛も伸びとるようじゃ。怖くはないぞ、わしの奏でる調べをお聞き。と言うとすごい勢いでぼくの周りを回り始めました。
― うあぁ、魔法みたい。なんていう楽器?。― バイオリンじゃ。

― なんていう曲?。― パガニーニじゃ、人は『悪魔の微笑み』とか言うとる。

― 楽しいね、これ!。ぼくはリズムに合わせてステップをふみました。

― 愉しいか、そうじゃろ、そうじゃろ。グルグル回りながら、カニさんの手はすごいスピード弦を移動し、弓を振り回し、ときどきビシュ・ビシューとハサミがでてきます。

ぼくはたまらなく楽しくなって、ピョンピョン駆け回りました。

― ほれ、済んだぞ。どうじゃ、わしは天才じゃろうが。― あれぇ、カニさんどこ?、また小っちゃくなつたの。

― ここじゃ、上じゃ。

上を見るとお空の大きなカニさんが、ハサミを振っていました。

― ふぁ〜、カニさぁ〜ん。

― ほら。

とカニさんのいう方を見ると、ぼくの毛が太陽風に乗ってふわふわ飛んでいました。そしてバイオリンの旋律に乗ってきらきら光りながら、夜空をゆっくり回りながら流れていきました。

 

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