En hiver冬の夢


夜は急に冷え込みました。

ぼくんのルーシーの血が騒ぎます。もうすぐ冬です。公園の12時過ぎはもう既にいくらか冬かもしれません。

冬の張りつめた空気を肺に入れて体を冷やしながら走るのが、嬉しくて堪りません。

でも帰ってきて、お父さんに暖かいお湯のなかで脚を洗ってもらうと、爪先がじ〜ンとしてきて暖まります。

それから消化のいいご飯をもらってお家へ寝に行きます。

お父さんとお母さんとの間でちょっとしたやり取りがあったりすると、たいていお母さんのほうへ縁って寝かされます。

でもしばらくするとお父さんの布団の中に、頭を入れて寝ていたりします。

お父さんの手とぼくの脚が交差して、目を覚ましたお父さんに背を向けるようバタンと反対に向けられます。

それでもぼくはお父さんの頭にぼくの頭を引っ付けて、ケイローンさんの塾の宿題の答えを見つけにお父さんの夢の中に入って行きます。

――ねぇ。おとうさん、ここで宿題やってもいい。

――お母さんのとこでやれば。

――お母さんのとこは道に迷わなくていいんだけど、狭いから無理だと思うよ。

――どんな宿題?。

――条件の考え方。

――それって、絶対条件とか、必要条件とか、充分条件とかの話?。

――そう、そう。どこらへんにある?。

――Pt997/Fs97、*イェーツ大通りボロディン南ウプラサ上ルだよ。

――なんだか凄い名前の所だね。帰って来れるかなぁ〜。

――蛍石持って行ってね。

――うん。ぼくはお父さんのおでこにぼくのおでこを重ねました。

――あのさ、ゲクラン。

――なぁ〜に?。

――こないだ入ってきたときさ、なんか落として忘れて帰っただろう。

――えぇっ、なんで。なんか忘れ物したっけ?。

――最近ときどきね、なんだかね、無性に道端でおしっこを地面にかけたくなるんだよね。どう思う。

――どう思うって、その衝動は良くわかるよ。でもぼくのおしっこ取り二人で使っちゃうと、溢れちゃうよ。

――だから変なもの置き忘れてきたんじゃない。

――1度急にシワの深い所で前脚が滑って、転んじゃったことがある。

――きっとそれだ。落としても、自分のものはちゃんと拾って戻ってもらわないと、困るよ。

それからぼくは、エーテルの中に潜って座標Pt997/Fs97、イェーツ大通りボロディン南ウプラサ上ルという、お父さんの頭の中の住所を目指して、溝に注意しながら走っていきます。

所々でお父さんのシナップス細胞が連結して盛んに点滅しています。

お父さんはどんな夢みてるんだろうって思います。

ぼくの夢見るかなぁ〜って思いながら、蛍石を取り出して点滅してる光を集めて、答えを探していきます。

――ゲク、祐ちゃん、ゲク、ほらほら。と声が聞こえます。

――呼ばれたね。呼んでたね。とぼくとお父さんはエーテルから顔を出して見合いました。

――見つかった?

――だいたい集めたよ。

――忘れ物はしてない?

――してないと思うけど。でも呼ばれて、急いで戻ったから見直す時間がなかった。お父さんは何処へ行ってたの。

――うぅん、ちょっとね。

――お母さんだね。そーうだね。そろそろ散歩の時間だよ。

――ほら、ほら二人とも起きて。さ・ん・ぽ・、ジョナ君、バル。とお母さんは耳元で囁きました。

ぼくの耳は散歩という言葉やジョナ君、バルという音に勝手に反応して、両方とも立ってしまってきょろきょろしてしまいます。

お父さんとお母さんが冬支度の格好を準備しているあいだ、ぼくはドアの前で正座して待っています。

そしてお父さんにリーシュで引かれて、 "何して・あ・そ・ボ・かぁなあ・と。と・と、ギャロップで公園へ向かいます。

最近お父さんは自転車をやめて、デパートで買ったマッスルシューズとかいう重たそうな靴を履いて、歩いていきます。

途中おしっこして、うんちして準備万端です。

公園に着くともうジョナ君がいて"冬だ、冬だ"とわめき散らしながら走り回っています。

――こんばんは、今日寒いですね。とお母さんたちやお父さんたちはあいさつします。

みんなで走り回ります。

今夜はザクちゃんもいて、モーリス兄ちゃんとチビのナナキちゃんとボルゾイが4人もいます。

思い切り走って疲れた頃、いつものようにスタンダードプードルのお転婆ラビちゃんが、ぼくを首投げしに来ます。

疲れて相手できないからごめんなさいしても、なかなか許してくれません。

ひとしきり騒ぎが終わると、それまでぼくたちを見張っていたお父さんお母さんたちも、ほっと落ち着きます。

飲み物を飲んだり、煙草を吸ったりし始めます。ぼくも煙草が吸いたくなったのでポケットの煙草を探します。

――あれ、あれ。ポケットが無い。きょろきょろしてお父さんのほうを見ます。

――ねぇ、祐ちゃん。なにやってんの。はやく枝投げてって、ゲクランがいってるよ。

お父さんは枝をにぎりしめて、上にあげたり、じっと見たり、横にしたりしています。

――えぇ、これ。枝。これ、枝ね。これ噛むと堅いよねぇ。と言いました。

――あたりまえでしょ、はやく投げて。ねぇ〜、げくらん。と言いました。

お父さんとぼくは早く帰って、寝ないと。と思いました。

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