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2002年07月 アーカイブ

2002年07月04日

第7回 長文注意!  一か月分

先日久しぶりに外出した。
渋谷で用事を済ませたあと、新宿へ向かった。
日差しがとても強くてサングラス越しの町並みも白く翳むようだった。
乾燥した風か吹いていて何となくうきうきしていて、のどが渇いていた。
新宿では納品するだけで時間があったので、
西口の改札をから地上に出て坂を下って、青梅街道を渡った。
途中の町並みは学生の時のままで、入ったことはないけれども、
いつも通るたびになんでこんな所にあるんだろうと思っていた古本屋も、そのまま変わらずにあった。
街の騒音がイヤホンをすり抜けて耳に入ってきて、心地いい。
好きな曲を編集したMDを持って行った。
10年振りに行こうとしている喫茶店が今もあるのか、ちょっと心配だった。
その手前に同じオーナーのこじんまりとしたレストランがある。
そこを過ぎて三叉路を左に折れば直ぐ右手に見える。
外観は変わらず、名前が今風のイタリア語になっていた。
とりあえずカフェであることには違いがなかったので、入ってみた。
内装もそのままで、当時と同じ匂いがしていた。
あれから20年余り過ぎていた。
類火にあって再開するのにだいぶ時間がかかったし、建物が変わってしまって、あまり行かなくなった。
それ以前は木造で、カウンターにガスランプがあって冬の寒い日、
客が少ない日には火を灯してくれるようせがんだ。
石綿のネットが青白くゆれ、それから狭い店内の温度が上がった。
カウンターに10脚余りの椅子しか置いてないので、直ぐに満員になった。
するとぼくらは待ってように、いつもは行かせてもらえない、
殆ど直角に近い梯子でロフトへ上がった。
客層はぼくらを除くと大人の人達で、女性の二人連れも多かった。
そこでぼくらは、おとなしく行儀良くコーヒーを飲んだ。
―名前が変わったんだ。と言うとオーナーが代わったことを知らされた。
体を壊されてかつての従業員に譲られたそうだ。
あの人らしいなと思った。あるとき、どうすれば美味しいコーヒーが淹れられるようになる。
と聞いたことがある。―まず1万杯淹れなさい。と言われた。
今はもうとうに1万杯は越したけれど、同じように質問をすれば、―10万杯淹れなさい。
と言うんだろうな、と思いながら靖国通りの交差点を渡った。
 
今回読んだ本は『パラドックス』『マラトン』。
『パラドックス』
――『数学 数学原論 嫌いな人の為の数学』で後味の悪い思いをした方には、とてもお勧め。
11人の研究者がそれぞれの分野で出筆している。
そのなかの大澤真幸氏は注目している研究者の一人。
『マラトンⅠ』――中国ものからギリシャへ転進。どちらも紀元前。
佐藤賢一とともに好きな歴史小説家。
荒俣宏の『アレクサンダー戦記』と比べて、ピダゴラス教団の解釈が楽しみ。
『数学 数学原論 嫌いな人の為の数学』と
『ジョン・ランプリールの辞書』については前回お話した。
『装飾の神話学』――ヨーロッパにおける装飾の基本的な系譜が書いてあります。
『われらをめぐる海』――長い間読みたかった本の一つでした。
レイチェル・カースンの
『海辺』はレヴィ・ストロースの『悲しき熱帯』と同じようにたまに手にとって読み返す、
とっておきの本です。いろいろとお話したいことは一杯あるのですが、
ぼくらを含め森羅万象について深い共感と諦観から、凛とした生き方を示してくれます。


『リスボンの小さな死上・下』
――60年余りを要する物語なので登場人物に感情移入はできないが、久々のお勧めスリラー。


『桃源郷上・下』
――陳瞬臣は昔父親の『小説十八史略』『アヘン戦争』『太平天国』を
夏休みに帰省した折に、気晴らしに読んだことがある。
カラ・キタイや当時の世界史に前々から興味があったので読んでみた。
前出の読物以上のものではなかったけれど、―言葉とは吹けば飛ぶようなもの。
という一説が心に響いた。しばらくぼくのボキャブラリ―の中で流行った。


『死んでいる』――面白い視点で書かれた、老夫婦の他殺事件にまつわる物語。
P・グリーナウェイの『Zoo』を思わせるが、それほどスタイリッシュと言うわけではない。


『やがて中国の崩壊が始まる』
――幾つか並行して読んでいるビジネス本の一つ。
かつて始皇帝が統一してから、このような広大な土地を領土とし続けている国は他には無い。
カナダ、アメリカ、ブラジルにしろ10分の1に満たない。
『日本の女優』
――『貴種と転生・中上健二』以来著作としては、久しぶりの四方田犬彦。
読書中毎晩・夜明けと言うか、ぼくにとってはスリリングなひとときだった。
李香蘭の『蘇州夜曲』の入ったCDをネットで買った。
『中世奇人列伝』
――中世日本史はいろんな事情から最も解かり難い時代かもしてない。
と言うより、網野善彦氏らの成果で明治以来の概念が覆されているにもかかわらず、
源氏と平家の旧対新の構図や皇国史観などによつて培われたものによって、
ついバイアスがかかってしまうと言うべきか。
前に江戸が注目されたとき、平戸藩のある武家の離縁騒動の顛末を読んだことがあるが、 br> 歴史とは通史はなくリアルなものだと改めて思いながら、
飾り物になってしまつたブローデルの『地中海』を見やる。
『水曜日の朝、午前三時』――サイモン&ガーファンクルのアルバムに
『聖しこの夜』をバックにレニー・ブルースが亡くなりました、と言うニュースが流れるのがある。
同時代の空気を吸って過ごした人のものは、やはり気になる。
何だったか忘れたけど、団塊世代の全共闘時代の女子について書かれたもので、
浅間山荘でリンチにあって亡くなった女子大生の日記に、
評価の対象に"かわいい"と言う言葉が使われていたそうだ。
この主人公も"かわいい"と言い始めた女子の一人だったのだろうか。
ぼくらは子供の頃、彼女らに"かわいい かわいい"と言われると自嘲的になった世代で、
新作を見せた男の子に―かわいいスねぇ~、ちょーかわいいス、やばいスよ、これ。
とか言われて、どぎまぎしながら、―それって誉めてんの?。と言ってしまう。


『真珠湾の日』
――昨年は"パールハーバー"の区切の年で話題になった映画もあり、
軍『愚将井上成美』 事関係の書籍が多く出版された。
続けて3冊読んだ。
『真珠湾の日』の『軍学考』
     半藤一利氏はフランスで言うところの所謂モラリストの系譜にあたる
  稀有な人だと思う。
誤解しないでいただきたい、モラリストとは啓蒙思想の百科全書派に遡ります。
『ノモンハンの夏』は読んでおくべき本の一つだと思います。
『愚将井上成美』はセンセーショナルな題名でびっくりしたけど、
井上成美を反戦の知将として書かれた本が多いなか興味を引かれた。
かねがね珊瑚海戦の評価で―戦術で勝って戦略で負けた。
と言ったものがあったので、どう言うことかと不思議に思っていた。
そんなことは在り得ないことだから。
『軍学考』軍事について興味のある方は、楽しめるかも。
戦争についてはアニメの『銀河英雄伝説』はいろいろ考えさせてくれます。


『ローマ人の物語Ⅹ』
――塩野七生は女性作家としてリスペクトしている一人。
感情移入も力強いけれど、原資料の収集と分析・筆勢・筆量凄いです。
Ⅰの『ローマは一日にしてならず』から虜です。おかげでカエサルが好きになった。
それからこの人には、ぼくの好きな歌で
―命短し 恋いせ乙女よ―と言う歌詞がロレンツォ・メデチだと教わった。
それまでは、与謝野鉄幹だと思っていた。よかった。
それからどれもお勧めだけれども
『海の都市の物語』もいいです。
『気象と自然の博物誌』――自然の不思議さが大好きな人にはとてもお勧め。
ぜひ読んでみてください。
『村上春樹とアメリカ』――村上春樹の小説で暴力が影からリアルなものになっていって、
サリン事件にコミットし、ある死刑囚の私記を翻訳してずっと気になっていた。
ティム・オブライエンとの指摘があるが、オブライエンはまだ読んでいなので、詳しいことは言えない。
会話の色調でリチャード・ブローティガンとの比較をすると面白いと思う。
それにしても新作の『海辺のカフカ』をアマゾンで予約したのに、
発売日が過ぎたというのに未だ届かない。
店頭に直ぐ行けばよかったらしい。


『凛冽の宙』――うぅ~ん、コメントと同じように話が単純。


『アジヤの隼』――金融界についての用語に慣れた。


『風の国のナウシカ全巻』――宮崎駿には人物のプロトタイプがある。
ぼくは『もののけ姫』でも敵対する一方のヒロインのほうが好き。
そう言えば、『千と千尋の神隠し』で白の可愛そうなシーンのところで、じ~んときてしまった。
まゆりはゲクランを抱きしめて涙ぐんでた。
『ルーシーの膝』
――このアファール猿人の発掘にあたった人達が、なんて粋な名前を付けたんだろうと思っていた。
発掘が丘の上でなくってよかった。最先端の地質人類学とルーシー発掘当時の話を聞ける。


『イブの7人の娘たち』――ミトコンドリアについてはいろいろ話題を呼んだ。
日本では『イブ』という小説が出て、映画化された。
犬飼の視点からも興味があった。
イヌとの共生によって人間が、
夜安心して眠れ、食べ残しの残飯がなくなり住居周りの衛生が向上し、
嗅覚が後退したという説がある。
遺伝子のクラスター変化と地質的データとで、架空の7つの始まりの女性を物語っている。
それにしても、研究成果は素晴らしいけれども
『ルーシーの膝』のイブ・コバンにしても自己主張の強い人だ。
そして商売人?
それぐらいでないと、発掘やサンプルの収集の費用は維持できないんだろうなぁ。

小島祐二


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