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2007年11月 アーカイブ

2007年11月21日

第28回 ――キーツの耳はウサギ?の耳 ―ようこそ不思議さの中へ

物質が意識を持つという事をどう記述すればいいか その方法をぼくたちは知らないが

意識という事すらよく解らないのだから

解っている事言えば 

始まりも知り得なければ また終わりも知り得ないだろう という事だけだと思う

リアルなこの感覚の意識からいうと なんと不思議な事だろうか

そういった意味では 脊椎動物には非常に連帯感を感じるし

同じ哺乳類にはさほど違いを見いだせない

犬たちと暮らして思う事は 

感覚の蓄積の記憶から引き出す意味という作用の構築の多さと

複雑さに関しての傲慢な思いだけのような気がする

意味とは作用であり 作用は構築されて成立するものであり 

それは事化されることで 物象化される

事化ということは言語化と同義であり 物象化とは語られることである

そして語ろうとする意思は 想像と抽象において誤謬の対象となる

物が意識を持ち意思を構築して物を作り出すことの なんと不思議なことか

この不思議さは フーコーの言葉を借りれば 

“賭けてもいい 砂に描いた顔のように消え去る”

ぼくたちは犬たちと暮らし始めてから6年余りになる

決して長くはない

その間に4頭の子たちと暮らし  2 頭の子たちが旅立っていった

未経験で超大型の生まれたてのボルゾイと暮らし 

ぼくたちの年を遥かに超えた老犬と暮らし

そして今 青年期から犬の黄金期にさしかかる子をレスキュー団体から引き取った

考えてみれば無謀な選択で 全てがはじめてのきらきらとした世界と

一転して 安らぎ中で静かに老いていく姿を見るという 

そして 今真ん中を埋め合わせているという 変な暮らし方ではある

というのも最初の子が約束を破って さっさと神様の所へ帰って行ったからだ

今でも よく一人で逝けたものだと思うし よくぼくたちの所へ来たものだと思う

ぼくたちの方が 彼と神様との約束を判らなかっただけなのかもしれない

最初の子には母犬のティグラの gula をとって guesclin ゲクランと名付けた

母親に似て優しい美しい犬に育った 

ローマンノーズの鼻梁からアーモンドの目尻 細く隆起する眼孔と額 後頭の尖り

それから口元から耳 その付け根から首筋を 

とくに風上に面をかざして空気の匂いをとる姿を 

また 深い胸から後へと切れ上がる内股 背から大腿にかかるアーチ 

細い脚の躍動を ぼくたちは愛した

ゲクランがそういうエアーセントをする時は ぼくたちはそーぅと忍び足になった

繁殖を引退したティグラとそのペアの父犬を引き取るのが はじめからの夢だった

ゲクランとは思いもよらず2年しか暮らせなかった

新しい子犬を と言うブリーダーを説得して 父犬をキーツと名を変えて迎えた

残念な事にティグラは既にこの世にはいなかった

キーツは9歳を越えて 海の日にやってきた

涼しくなる秋まで待とうかとも思ったが 

初めて会った時はジャンプして迎え 帰るな行くな とすり寄ってきた若々しさが 

犬舍の内という運命を淡々と受け入れている姿の変わりように耐えられなかった

その年の7月 犬舍の坂を下って千曲川に散歩に出かけた

思った以上に脚が弱っている事に気づいて 歩みを止め木陰を見つけ涼をとって

ぼくたちは キーツの眼差しに未来をみた

蜩の鳴き始める静かな昼下がりだった 

それからキーツは4年間ぼくに眼差しを送り続けた

昨年から急に老いが目につくようになるつれ ぼくの方は忙しくなった

出かけるぼくを目で送り 帰ってくると 

真っ先にじたばたと 撫でてもらいに顔を寄せてきた

気がつくと 遊んでいるときのように耳を立てるようになっていた

微熱が続き目脂が多くなって 取りきれなくなった時 そのあくる日を告げた

それが キーツとの約束だった 

そして 最後までその足音を聞いて 耳を下ろすことはなかった

膝の上で痰が絡まる弱い呼吸が途絶え ほっと脱力して各々顔を見合わせた時

抱いている手を持ち上げるように 顔を近づけて2度深く呼吸をした

最後までキーツらしく ずっといつまでも一緒にいたいのだと 

嬉しく思ったが 何かしっくりこないものを感じながら

なぜか“犬の十戒”の出典が気になったりして 日々が過ぎていった

あとで やはりそれが思い違いである事を知った

ある日疲れて午睡をとっていると ゲクランに教えられた

キーツがいなくなった悲しみは ひと月 ふた月と

日を追って増してくるように思う

今こうして ヴィヨンやイプーを見ていると 

なにかこう 華やかなバラ色に輝いていたゲクランとの日々が突然終わり

(ゲクランと暮らした日々は別に書いた)

凛として老いに向かい合ったキーツと静かに暮らした日々が 深々と懐かしくありがたい

そして キーツのいない事が不思議であり キーツと出会った事が不思議であり

キーツと暮らした事が不思議で また キーツが無くなってしまった事が不思議だ

そして この大切な記憶がいつかは無くなってしまう事が 不思議だ

この不思議さに反転しそうになると  mac に取り込んだスライドを見る

そして ヴィヨンとイプーと一緒に帰る時にも消さないで そのままにしておく

ふたりに一日の終わりの匂い取りと排泄をさせながら

誰もいないぼくの部屋中に 記憶の光の粒子が音符に攪拌され混じりあって

グクランとキーツがふりおりて形になっていくのを感じる

ふたりが鼻先をこちらに向け 遠くから眼差しを送る姿を想い描く

2007/11/21

小島祐二

dogs.jpg

―亡き王女のためのパヴァーヌ - 中川昌三 - スティル・エコー Ⅱ ー

―そのあくる日 ( ゲーラ )- 大萩康司 - シェロ―

犬の十戒

1. My life is likely to last ten to fifteen years .

私の一生は10から15年くらいしかありません。

Any separation from you will painful for me.

ほんのわずかな時間でもあなたと離れていることは辛いのです。

Remember that before you buy me .

私のことを飼う前にどうかそのことを考えてください。

2. Give me time to understand what you want of me .

私が「あなたが私に望んでいること」を理解できるようになるまで

時間が必要です。

3. Place your trust in me- it's crucial to my Well-being.

私を信頼して下さい。それだけで私は幸せです。

4. Don't be angry at me for long and don't lock me up as punishment.

私を長時間叱ったり、罰として閉じ込めたりしないで下さい。

You have your work , your entertainment and your friends .

あなたには仕事や楽しみがありますし、友達だっているでしょう。

I have only you .

でも、私にはあなただけしかいないのです。

5. Talk to me sometimes .

時には私に話しかけて下さい。

Even if I don't understand your words, I understand your voice

when it's speaking to me .

たとえあなたの言葉そのものはわからなくても、私に話しかけて

いるあなたの声で理解しています。

6. Be aware that however you treat me, I'll never forget it.

あなたが私のことをどんな風に扱っているのか気づいて下さい。

私はそのことを決して忘れません。

7. Remember before you hit me that l have teeth that could easily

crush the bones of your hand

but that I choose not to bite you .

私を叩く前に思い出して下さい。私にはあなたの手の骨を簡単に

噛み砕くことができる歯があるけれど、私はあなたを噛まないように

しているということを。

8. Before you scold me for being uncooperative , obstinate or lazy ,

ask yourself if something might be bothering me.

私のことを言うことをきかない、頑固だ、怠け者だとしかる前に

私がそうなる原因が何かないかとあなた自身考えてみて下さい。

Perhaps I'm not getting the right food , or I've been out in the sun too long

or my heart is getting old and weak .

適切な食餌をあげなかったのでは?日中太陽が照りつけている外に

長時間放置していたのかも?

心臓が年をとるにつれて弱ってはいないだろうか?などと。

9. Take care of me when I get old ; you, too, will grow old

私が年をとってもどうか世話をして下さい。あなたも

同じように年をとるのです。

10. Go with me on difficult journeys .

最期の旅立ちの時には、そばにいて私を見送ってください。

Never say, "I can't bear to watch it ." or " Let it happen in my absence."

「見ているのがつらいから」とか「私のいないところで逝かせてあげて」

なんて言わないでほしいのです。

Everything is easier for me if you are there .

あなたがそばにいてくれるだけで、

私にはどんなことでも安らかに受け入れられます。

Remember , I love you .

そして , どうか忘れないで下さい。私があなたを愛していることを・・・

― 作者不詳

 

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