お父さんの脇の下にお鼻を入れて寝ているとお姉ちゃんが、お父さんのお鼻をクンクンして、お父さんの胸の上とぼくのお腹の上を乗り越えて、お母さんの枕元で―
お外!。とお母さんに言いました。 ― な・なんなの、い・いやだ、しびら。あっち行って!。 きょうお姉ちゃんが
― 電信柱で体をグリグリしてた。とお母さんが言っていました。 それからお姉ちゃんが振り向いたので、ぼくはお父さんの枕の上に顔を乗せました。 すると、お姉ちゃんは―
ふぅん!。と言って、また来た道を戻って、今度はおばぁ〜ちゃんの部屋の扉をカリカリしながら開けて入って行きました。お父さんは ― ふ〜っ。と言うとぼくの方に、寝返りを打ちました。 今夜はクノッソスの牛さんに会いに行きました。 牛さんは草の上に横になってモグモグしながら尻尾を振ってくれました。 ―
こんにちは、うしさん。 ― こんにちは、ゲクラン。お父さんからクレタのお話は聞いた?。 ―
うん、でも難しかったよ。 ― そうか、大事なのは、クレタ島の人がうそつきか、そうじゃないかじゃなくて、クレタの人たちがぼくたち牛を好きだってことだよ。 ―
そして世界中の人がぼくたちを好きになって、羊さんや君たちとこれからもずっと一緒に暮らしていくんだよ。 ―
ねぇ、それより知りたいことがあるんだけど。 ― なんだい?。 ―
牛さんはご飯食べてすぐ寝ちゃったから牛さんになっちゃったの。 ―
ぼくはずーっと牛だよ、どうして。 ― お父さんが子供のころ、おばあちゃんにそう言われたって。 ―
それはね、ぼくたちがゆっくり動くからだよ。人間は忙し過ぎるんだよ。 ―
ふうん。 ― ぼくたちは時間をかけてゆっくり食べたり、歩いたりして、草や土の香りをたっぷり味わって、また思い出しては食べるんだよ。 ―
ふうぅん。それから牛さんは、ぼくを懐に抱いてくれました。 ―
ほら、目を閉じて耳を澄ましてごらん。すべてが伝わってくるよ。 するとまぶたの薄い膜を通して陽の光が、風に揺れる梢、草の音が、土の温かさや、虫たちの歩き回る音がゆっくりゆっくりと伝わってきます。 そして牛さんとぼくの鼓動は、しだいに重なりあいゆっくりと時が過ぎていきました。 第三夜へ Topへ |