公園にお散歩に行くときは、4つ角をまがります。最後に広い道があるので、大きくて長い歩道橋をわたります。空は公園の方で大きく開けています。西に少し遠くに行った所に大きな川が南に向かって流れています。 いつも風は南西の方から川を渡ってきます。ぼくのおうちは公園の東にあるので、歩道橋をわたるときは向かい風です。 歩道橋は公園の遊歩道まで続いていて、内側は大きな広場です。 階段を上りきるとお鼻を風に向かって高く伸ばして、クンクンします。 でもぼくたちはサイトハウンドなので、匂いを嗅ぐのはあまり上手くありません。 知ってる匂いが風に乗ってやってくると、もう嬉しくなってステップを踏みます。 でも、まだリーシュから放してもらえません。 遊歩道を過ぎてやっと離してもらい、少し斜めになってテコテコテコと坂を下って、みんなの所へ近づいていきます。 ぼくは夜の公園でみんなと駆け回ったり、ボール遊びをしたり、引張りっこしたりして遊ぶのが大好きです。 大きい子も小さい子も女の子も男の子もお母さんたちもお父さんたちも仲良くしてるのが大好きです。 そして、お母さんとお父さんと三人で、ときどきお姉ちゃんと一緒にお布団でねんねするのが、一番好きです。 それがづっとづっと、づっと続くようにお祈りしています。 きょうは一日中お天気で、青空が広がっていました。外のほうが気持ち良かったので日向ぼっこをしました。 最近少しお咳をしていたのと、夕方から風がでてきたので、ぼくはお父さんに、ぼくがまだ生まれる前に買った、ユニクロのフリースを着せられました。お母さんは
― かわいい!、かわいい!。と手をたたいてすごくはしゃぎました。 歩道橋の上に来ると、おとうさんが
― ああっ、ほら、ほら見て。待って、ゲクラン!。お空を指して言いました。 ―
ええっ、なに。お母さんはお空を見上げました。 ― ほら、スーラの絵に似てない。 ―
ああ、似てる、似てる。 月夜の明るい空に、小さくちぎれたもこもこした秋の雲がかさなって、女の人の姿が見えました。 大きく風で膨らんだようなスカートをはいて、傘をさしています。 お父さんとお母さんは風に吹かれながら、しばらく見上げていました。 ―
ねぇ、お父さん、スーラってなぁ〜に?。 ― 画家だよ。後期印象派の人で点描主義って呼ばれたけど、自分では光彩主義って・・・・。 それからお父さんは、オルセーに行っても貸し出し中や工事中で、なかなか見れなかった『日傘を差した貴婦人』を見たときは、ルーブルで『サモトラのニケ』を見たと同じように感動したことや、日傘の影になって顔を見ることはできないけど遠くを見ているまなざしは、透明な悲しみで人間の営みに向けられていることや、それを想うとビートルズの『フール
オン ザ ヒル』やボブ・ディランの『風に吹かれて』を思い出すだよと、話してくれました。そして姿が壊れていくのを静かにながめていました。 ぼくは夢の中でおとめ座に向かって歩いても歩いても、走っても近づけません。 声を出しても響きません。 しかたがないので、遠くからじーっとみつめました。 そこには地上へむかう、やさしくて深く深い悲しみがあることをしりました。 第七夜へ Top |