―
小さき者よ。 ― あぁっ、ケンタウロスのケイロンさん。銅像かと思った。 ―
小さき者よ。ケイローンだ。 ― ケイローンさん、こんばんは。 ―
こんばんは、小さき者よ。 ― ふうぅん。ぼく、小さいとも言われるけど、大きいとも言われるよ。 ―
小さき者よ、ときによって大きくもなり、小さくもなるのか?。 ―
いいえ、ケイローンさん。ぼくはいつも同じです。 ― すると何が大きくなり、小さくなるのか、何が違うのか、考えてみよ。小さき者よ。 ―
ふうぅん、言った人が違います。そ・それと比べたものが違います。 ―
そうだ、カニやサソリに比べればよほど大きい、がライオンに比べれば小さい。― そうです。 ―
では、同じ犬族の中では最も大きい犬種と言える。ならば如何なる理由でその言説が成立するのか、小さき者よ。 ―
ふうぅん、む・むずかしいです。ケイローンさん。 ― 小さき者よ、よく考えて見なさい。 ―
うぅんと、うぅんと、えェっと、一人一人みんなと比べていけばわかります。 ―
では、二人の親友のうちのフレブルのバルバはどうだ?。小さき者よ。 ―
バルバはう〜んと小さい方です。 ― ならば、もう一人のアイリッシュのジョナサンはどうだ。小さき者よ。 ―
ジョナサンならふつうより少し大きいかもしれません、ケイローンさん。 ―
バルバは何かと比べたのか?、小さき者よ。― ぼくとです。 ―
ではジョナサンはどうだ?、普通と言うのは誰のことだ?。 ―
誰でもありません。いろんな人のことです。ケイローンさん。 ―
バルは最初から既に小さき者として明白であったな。 ― そうです、ジョナは・・・・・。―
そうジョナサンは迷ったな、だから誰でもない架空の者と比べた。 ―
はい、そうです。ケイローンさん。 ― その普通の誰でもない、或いは何にでもない架空のものを基準と言う。プラトンはそこに理想を介入させ、愚かにもイデアと呼んだが。 ―
む・むずかしすぎます、ケイローンさん。― そうか、思わず興奮してしまったようだ、ゆるせ、小さき者よ。 ―
しかしこれだけは覚えておくのだ、小さき者よ。― な・なんですか。 ―
比べるものが、それを経験と言うが、多ければ少なきものとは森羅万象見えているものが、まったく違ってくると言うことだ。しかし、それに頼ってはならぬ。めったな事を言ってはならぬ、小さき者よ。 ―
はい、わすれません。ケイロンさん。― ケイローンだ。小さき者よ、ところでわたしを銅像かと言ったな。 ―
はい、ケイローンさん、ここで何してるんですか?。― 弓を引いている、なぜ聞く?。 ―
じっとして動かないから、的は何なんですか。 ― 的は何もない、または全てである。そして、わたしの右手の指が矢を放つ事はない。わたしは既に的を射抜いているのだ。 ―
ふあ〜ぁっ、そ・そうですか!。― 何故か、考えてみよ。小さき者よ。 ―
?!・・・・・・・。お空がだんだん白んできました。ぼくは『やっとかいほうされそうだ』と思いました。 ―
そろそろ行かねばならぬようだ。残念だが、明日にしよう。明日ここで待て。― えぇっ、ケイロンさん!。 ―
ケイローンだ。さらば、小さき者よ。 第十夜へ Topv |